「どうして日本人は英語が下手なのか」
台湾に来て18年になりますが、この18年間で台湾人になんども聞かれたこの質問は、不愉快ながらも、私自身「どうしてだろう」と考えさせられます。
「日本人は英語ができない」という概念は、恥ずかしながら台湾の子供たちの間でも当たり前のように浸透していて、娘が「お母さんは英語の先生だ」などと英語塾で発言した時には「日本人なのにすごいね」とクラスメイトにお褒めの言葉をいただいたくらいです(苦笑)。「日本人なのに・・・」
日本と台湾、もちろんどこの国でも、学習する「英文法」の内容は同じですし、授業開始学年に差があったとしても、それだけでは英語力に差はでないはずです。
ではどこで差が出てしまうのでしょうか。
今回の記事では、日本にも台湾にもある「英検」について調べてみました。日本の英検と台湾の英検の試験内容は同じようなものなのでしょうか。レベルの差はあるのでしょうか。
これから台湾の英検についてお話ししますが、その中でもスピーキングの試験を中心にご紹介します。英語ができるできないは、やはり話せるかどうかで決まると思いますので、筆記やライティング試験については割愛させていただきます。
全民英検初級についての記事はこちら
目次
台湾の英検「全民英検」
台湾にも日本と同じように「全民英検」という英検があり、頭文字をとってGEPTとも呼ばれます。中学生以上を対象とした検定で、小学生以下は受験できません。(小学生は「GEPT kids」という子供向けの英検があります。)
<訂正:小学生でも全民英検を受験できるようになりました。(2020年現在)>
全民英検の級は「初級」「中級」「中高級」「高級」「優級」の5つ。レベルの目安は以下の通りです。公式サイトを参考にして、大雑把ですが簡単な日本語にしてみました。
公式サイトのリンクは記事最後に貼ってありますので、興味のある方は参考にしてください。練習問題を覗くことができます。
なお、それぞれの級で、1次試験と2次試験があり、1次試験はリスニングとリーディング、1時試験に合格した人は2次試験でライティング(中国語から英語への中文英作やエッセイなど)とスピーキングテストを受けます。
初級
簡単な日常会話が聞き取れ、簡単な文章の朗読、ショッピング、あいさつ、自己紹介などができる。
参考職業・・・一般事務、レストランやデパートでの接客、タクシードライバーなど。
初級の大体のレベル(出題文法)は日本の英検の3級くらいで、台湾では普通中学1年生か2年生が受ける検定になります。日本の試験の大きな違いは2次試験のスピーキングテストにあると思います。
日本では1次試験に合格すると2次試験の「面接」がありますが、台湾の2次試験の場合、「初級」「中級」「中高級」までは録音式のテストになります。ヘッドホンから流れるネイティブスピーカーの質問等を聞いて、その答えを録音します。
スピーキングは3部になっていて、初級はそれぞれ「復唱」「朗読」「回答問題」です。
「復唱」とは、流れた音声の通りに文をリピートする問題です。これは聞き取れなければ復唱できませんので、リスニング力とスピーキング力が測られます。
文自体は3級程度の簡単なものですが、正確に聞き取ってリピートしなければ減点されます。文は5問、それぞれ2回繰り返されます。
(例)Please turn to page one hundred thirty-seven.
「朗読」は文または文章を読むだけなので、スピーキングテストの中では一番簡単かもしれません。5問の短い文と、1問の文章を読みます。読む前に1分黙読する時間が与えられ、そのあと1分以内に全部音読します。
「回答問題」は、関連のない7つの質問に答える問題です。回答時間はそれぞれ15秒です。質問内容はそんなに難しくありませんが、録音時間は15秒しかありませんので、日頃から英語を話すことに慣れておかないといけません。
質問は英検3級のエッセイとよく似ていますが、エッセイと違って回答をじっくり考える時間はありません。
(質問例)Do you think TV is good for children?
(回答例)Yes, I do. Kids can watch many programs and learn a lot from them. TV also keeps kids at home and keeps them safe.
中級
一般的な会話が聞き取れ、公共の場で放送される英語アナウンスが理解できる。外国人と仕事の簡単なやりとりができる。
参考職業・・・ホテルや旅館の接客、旅行会社、公務員など。
中級は日本の英検の準2級から2級くらいだと思います。中級のスピーキングテストでは「復唱」はありません。「朗読」と「質問回答」に加え、TOEICのリスニングに出てくるような写真描写があります。写真を見て、その場所や人物について英語で描写します。
初級と同じく、質問されて数秒後には回答しなければいけないので、色々な質問にすぐに答えられるように日頃から練習をしておかないと合格しません。もちろん発音や文法の大きなミスは減点対象です。録音なのでごまかしは効きません。
中高級
広い範囲で英語を使うことができる。小さなミスはあるものの意思疎通に差し支えはない。
参考職業・・・航空会社、ツアーガイド、秘書、海外向け業務など。
台湾の小・中学校の英語教師は「中高級」に合格していることが必須条件になっています。
「中高級」はTOEFL(iBT)80、IELTS 6.0と大体同じくらいとされていて、海外の大学入学の条件に台湾の「中高級」が認められているところもあります。
日本の英検では準1級がIELTS 6.0くらいだとされていますので、台湾の「中高級」と日本の「準1級」がだいたい同じくらいになると思います。
CEFR(ヨーロッパ共通の英語ランク付け)では中高級がB2からC1というランクになり、英検準1がB1からB2ということから、だいたい同じとはいえ「中高級」の方が英検準1級よりも程度が高いということになります。
CEFRと英検の対照については、こちらのサイトを参考にさせていただきました。
「英語4技能試験情報サイト」資格・検定試験CEFRとの対照表
日本では中学の英語教師の英検準1級取得率は3割程度、高校の英語教師でも7割に満たないと言われます。
対照表によると、台湾の中学英語教師は全員が準1級を取得しているのと同じということになりますから、台湾の英語教師のレベルはとても高いと言えますね。
高級
あらゆる分野で流暢な英語を話し、ミスもほとんどないレベル。
参考職業・・・国際ジャーナリスト、通訳者、外交官、高校以上の英語教員
台湾の高校以上の英語の教師は、この「高級」の試験に合格することが必須となっています。そして将来的には、小中学校の英語教師にも「高級合格」を求める方向で進めているようです。
「高級」は、IELTS 6.5以上、CEFRだとC1にランク付けられます。(C2が最高)
ちなみに日本の英検では1級がB2からC1にランク付けられますので、1級を取得していても台湾の高級に合格するとは限らないということになります。それだけレベルの高い英語力を要求されるテストです。
台湾の英検では、高級からスピーキングテストが面接になります。英語を母国語とした外国籍の試験官1人に対して受験者は2人か3人になります。
英検1級の2次試験のように受験生のスピーチだけではなく、高級の面接では他の受験者のスピーチを聞いてメモを取り、それを要約したりと、他の受験者とのやりとりを通じて総合的なスピーキング力をみるテストになっています。
高校の英語教師は全員がこの試験に合格しているということですから驚きです。
高級試験の面接のデモンストレーションの動画のリンクを貼っておきます。埋め込みができなかったので、興味のある方は下のリンクよりユーチューブを開いてご覧ください。
優級
高等教育を受けたネイティブスピーカーレベルの英語力。
受験資格・・・3年以内に高級に合格しているもの。
参考職業・・・国際特派員、外交官、交渉人
この級は特殊で、特別にアレンジされた機関や団体にのみ受験許可が与えられる試験です。個人での受験は受け付けていません。
そのため、受験日も受験料も決まっておらず、ちょっと神秘的な試験になっています。試験を受ける目的などの資料提出も必要で、いったいどんな方がこの試験を受けるのか気になります。
2次試験の内容は、2次試験のライティングで提出したエッセイに基づいて15分のプレゼンテーションを行い、そしてそのプレゼン内容について試験官からの質問に答えるといったものです。
試験対策で英語力を上げる
台湾の全民英検の試験内容を調べていくうちに思ったことは、スピーキングのテストはよくできているなということです。また、学校の英語の先生に求められる英語力の高さにも驚きました。
全民英検に合格するためには日頃からいろいろな質問にすぐ答えられるように訓練する必要があります。録音式なので質問内容や回答をゆっくり考えている時間はありませんし、もちろん聞き返しもできません。
初級や中級のテストでは、誕生日や趣味、家族や天気についても聞かれる可能性があるので、いつでも答えられるように準備しておかなければいけません。そしてこういった準備を行うことが、スピーキング力を伸ばすいい練習になると思います。
娘が通っている小学校でも、先月英語の試験がありました。リスニングを含む筆記試験とは別に、スピーキングテストも行われました。筆記100点満点、スピーキング100点満点の採点で、その平均が「英語」の成績となります。(スピーキングテストの内容は学校によって差があります)
娘の小学校で行われたスピーキングテストは、全民英検のスピーキングテストと似ていました。趣味や好きな色などについて5問ほど問われただけで、「初級」ほど難しいものではありませんでしたが、こうやって小学校の頃から英語を話す練習を行なうことはいいことだと思います。
そして小学生のうちからスピーキングが試験として点数がつけられるからこそ、英語塾などでネイティブ講師の授業を受ける子供が多くなり、その結果、台湾の子供の英語力はどんどん上がっていくのだと思います。趣味の英会話ではなく、成績がかかった習い事なので、みんな一生懸命です。
台湾の全民英検に興味がある方は、こちらの全民英検公式サイトの「認識GEPT」→「各級紹介」に進んでいただき、「練習題」をのぞいてみてください。
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