小学校1年生の時からピアノを習っている娘ですが、2年生の時にピアノの先生に高雄市の信義國小の音楽班の受験を勧められました。高雄市には約10の公立小学校に音楽科(3年生から)を設けていて、その音楽班に入るには2年生の時に受験をする必要があるのです。合格すれば3年生から音楽班のある学校に転校ということになるのですが、果たして台湾の公立小学校の音楽科とはどんなものなのでしょうか。
受験を勧めてくれた娘のピアノの先生は信義國小の音楽班の先生ですので、色々と音楽班についてのお話を伺いました。
(ちなみに、娘は今の学校が好きだという理由で受験をしませんでした。)
目次
台湾の早期教育は芸術面でも
台湾では英語の授業が3年生から始まります。ほとんどの子供は1年生から英語塾に通っているので、学校でABCを習う頃にはすでに中学文法を終えている子も多いです。台湾の英検ではリスニングとスピーキングを重視しているので、それなりに会話もできます。
競争の激しいのは勉強面だけではありません。芸術の面でも競争は激しく、将来、芸術方面のプロを目指すなら、小学校3年生の時に芸術科(音楽科、ダンス科など)に転入するのが王道となっています。(もちろん例外もありますが)
公立小学校の芸術科は3年生から
公立小学校の芸術科は3年生から始まります。これはダンス科も音楽科も同じです。私はダンス科やその他の科についてはよく知りませんので、今回の記事では高雄市の公立小学校の音楽科についてのみご紹介します。
高雄市には11の公立小学校に音楽科を設けています。中国語では「音楽班」と言います。音楽班といってもピアノや弦楽器だけではなく、管楽器や國楽(二胡や琵琶など)専門の場合もあります。
例えば、高雄市で一番有名な信義國小の音楽班では、ピアノと弦楽、管楽の専門科がありますが、前金國小や中正國小は国楽科、光武國小はリコーダー科(5年生から)というように、学校によって専門が異なります。
受験内容と定員
高雄市の音楽班受験は2年生の4月ごろになります。台湾では9月始まり6月終業なので、2年生がもうすぐ終わるという頃の受験です。申し込みはそれぞれの学校のホームページから行いますが、受験自体は高雄市の信義國小で同時に行われます。
試験ですが、一般入試の前に「書類選考」があり、国際、国内コンクール入賞経験者は書類選考だけで実技試験は免除となる場合があります。国際コンクールは3カ国以上参加する大会のみ認められ、また国内コンクールも教育局主催のものに限られます。
その他の機関主催の大会でも、好成績者は書類審査で合格する場合もあるので、一応提出しておきます。惜しくも書類選考で実技免除とされなかった生徒は一般入試を受けます。一般入試は音楽基礎能力(音感とリズム)と演奏(自由曲1つ)です。
音楽班の定員はそれぞれの学校に最大29名までと決まっています。採点基準に満たない場合は29名よりも少なくなることもあります。補欠合格者は空きのある楽器に回されるので、必ずしも入試で選択した楽器を専攻できるとは限りません。
また、入学後も、副専攻の楽器を自由に選べるわけではありません。ピアノとバイオリンを同時に習っていて、どちらの演奏も同じくらいの実力であれば問題ありませんが、1つの楽器(例えばピアノだけ)しか習っていない生徒の場合は、「バイオリン習ったことないけど副専攻はバイオリンをやりたい」と希望してもバイオリンを選択できる可能性は非常に低いです。
ピアノ以外の専攻の学生は、副専攻は必ずピアノです。
入学のレベル
一見厳しそうに聞こえますが、実は試験内容はそんなに難しくはありません。
ピアノ科に入りたければ、スケールとアルペジオをきちんと練習し、ソナチネ程度の曲を1曲きれいに弾くことができれば合格する可能性が高いです。音楽班の受験を勧められた娘も、2年生の時はクレメンティーのソナチネを1曲、間違えながら弾くレベルでした。ですから、音楽班といえど、2年生の時点で神童である必要は全くないのです。(神童は書類選考で実技免除)
学校によって、オーケストラの人数合わせで、4年生以上の編入試験を行うところもあります。高雄市政府教育局のホームページで募集している楽器が発表されるので、試験に合格すれば音楽班に入ることができます。
親のジレンマ
台湾では楽器を習う人は多いですが、小学校の3年生で音楽の道に進ませる決断をする親は多くありません。最近では、定員29名のクラスでも、受験生の数が少なく、定員割れしている学校もあるそうです。閉鎖の危機にさらされている学校もあると伺いました。
台湾の音楽班は放課後のクラブや音楽教室的なものではなく、学校での授業そのものが普通科の子供とは全く違う音楽中心のカリキュラムで進んでいきます。もちろん国語や数学などの授業もありますが、音楽班では週に6時間から10時間(高雄市の規定)が音楽の授業となります。
基本的には小学校の音楽班を卒業した生徒は、中学校、高校でも音楽班に進むことになると思います。もちろん小学校卒業後に普通の中学に進むことも可能ですが、競争の激しい台湾の学校では4年間のブランクを埋めるのは簡単なことではありません。極端な言い方をすれば、音楽班に入るということは普通科の生徒が目指すような学力偏差値の高い高校、大学への進学は難しいということを覚悟しておかなくてはいけないということです。途中で軌道修正ができる生徒はそう多くはいません。
もちろん逆のパターンもあります。
実は、娘と同じ学校に通う1学年上の先輩で、中学校の音楽班を受験したいという子がいます。同じピアノの先生の門下生でもあるのですが、中学の音楽班の受験には第2楽器の演奏もあるのでバイオリンの個人レッスンも始め、またオーケストラでも勉強しています。楽典、ソルフェージュ、声楽などの個人レッスン、コーラス部での練習など音楽づけの毎日です。
少しでも受験に有利になるようにと、コンクールの「非音楽班組(音楽班の生徒は参加できない)」にも積極的に出場して、ピアノ、バイオリンとも入賞を果たしています。
中学の音楽班の受験は、小学校の音楽班を卒業した生徒たちがライバルとなるので、音楽班出身ではない生徒にとってかなり厳しい受験となります。「小学校2年生の時に受験しておけばきっと合格できていただろうし、今のように苦労することもなかった」と、お母様はちょっと遅かった決断を悔やんでいらっしゃいました。ちなみに小学2年生の時に受験しなかった理由は、ご両親が音楽よりもが学業の方を優先するべきだとお考えだったからだそうです。
台湾の音楽班の生徒さんの動画を紹介
最後に、実際の音楽班の生徒さんの動画をご紹介したいと思います。
台南市 永福國小、大成國小
台南市の公立小学校の音楽班に入ったばかりの頃の期末試験の様子や、その後の小学校卒業演奏、それから中学音楽班の卒業演奏会をアップしている方を見つけました。同じ子の動画なので、成長の様子が伺えると思います。主専攻はピアノ、副専攻はバイオリンです。
先生によると、台南市の公立の音楽班は、永福國小と大成國中だけなんだそうです。どちらもレベルが高いとおっしゃっていました。
4年生の期末試験 ピアノ
4年生の期末試験 バイオリン
6年生 コンクール バイオリン
小学校卒業演奏 バイオリン(コンサートマスター)とピアノ
はじめの方は卒業生の挨拶ですので、4:45からご覧ください。
中学校の演奏 ピアノ
彰化縣 員林國小
こちらは有名な員林國小音楽班の卒業演奏の様子です。6年生でコンチェルトが学べるなんて羨ましいです。
ピアノを担当している子は次の演奏では第一バイオリンを担当しています。
ピアノ専攻でも、副専攻の楽器がここまで弾けるようになるとかっこいいです。私の大好きなドラマ、「のだめカンタービレ」の千秋先輩のようです。私はピアノしか弾けませんが、こんな風にオーケストラの一員として演奏できたら素敵だろうなと思います。
最後に
いかがでしたか。台湾では楽器を習う子供が多く、ピアノを習っている子供の多くがバイオリンなどの弦楽器も並行してやっています。音楽班を設けていない小学校でも音楽コンクールを開催し、楽器を習っている子供が気軽に参加できるようになっています。
小学校の音楽班は、音楽の道に進むことを早くから決断している子にとっては最高の場所だと思います。小さい頃からオーケストラやコンチェルトを学べるのも魅力ですし、音楽以外のことはほどほどで済むので、余計なことを考えずに音楽に没頭できます。また、公立学校なので、学費も安く抑えられます。(多少の追加料は必要)
ただし、うちの子どもみたいな「少しピアノが上手」という程度では、たとえ合格して入学できたとしても途中で挫折してしまって音楽も学業も中途半端な状態になってしまうリスクもあるので、判断は慎重にしたいものですね。
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